不当に低い請負代金の禁止
請負代金の決定に当たっては、責任施工範囲、工事の難易度、施工条件等を反映した合理的なものとする必要があります。
下請工事の施工において、無理な手段、期間等を下請負人に強いることは、手抜き工事、不良工事等の原因となるばかりか、経済的基盤の弱い中小零細企業の経営の安定を阻害することになります。
そこで、建設業法では、建設工事の注文者が「自己の取引上の地位を不当に利用」して、請負人に「通常必要と認められる原価に満たない」低い請負代金での契約を強いることを禁止しているのです。
「自己の取引上の地位を不当に利用する」とは
元請下請間の取引依存度が高い場合等、下請負人にとっても元請負人との取引の継続が困難になることが下請負人の事業経営上大きな支障をきたす場合には、元請負人が下請負人にとって著しく不利益な要請を行っても、下請負人がこれを受け入れざるを得ないような場合があり得ます。
自己の取引上の地位の不当利用とは、このような取引関係が存在している場合に、元請負人が、下請負人の指名権、選択権等を背景に、元請負人の希望する価格による取引に応じない場合は、その後の取引において不利益な取扱いがあり得ることを示唆するなどして、下請負人と充分な協議を行うことなく、当該下請工事の施工に関し通常必要と認められる原価を下回る額での取引を下請負人に強要することです。
通常必要と認められる原価とは
通常、建設工事の価格は、次の5つの要素により構成されます。
- ①直接工事費(材料費や工事費等、工事目的物の施工に直接必要な経費)
- ②共通仮設費(現場事務所の営繕費や安全対策費等、工事全体にまたがって使う経費)
- ③現場管理費(現場社員の給与等、工事を監理するために必要な経費)
- ④一般管理費(会社の営繕部門や管理部門の人件費や経費等)
- ⑤利益
建設業法にいう「通常必要と認められる原価」とは、当該工事の施工地域において当該工事を施工するために一般的に必要と認められる上記①~④の経費の合計値とされています。
不当に低い請負代金の禁止規定は契約変更にも適用されます
建設業法第19条の3により禁止される行為は、当初契約の締結に際して、不当に低い請負代金を強制することに限られません。
同条は、契約の内容の変更などに対しても適用されることから、元請負人にあっては、契約締結後に元請負人が原価の上昇を伴うような工事内容の変更をしたのに、それに見合った下請代金の増額を行わないことや、一方的に下請代金を減額することがないよう留意する必要があります。
請負代金は施工条件等を反映した合理的なものに
前述のとおり、元請下請間の取引依存度が高い場合等、下請負人にとって元請負人との取引の継続が困難になることが下請負人の事業経営上大きな支障をきたす場合には、元請負人が下請負人にとって著しく不利益な要請を行っても、下請負人がこれを受け入れざるを得ないような場合があり得ます。
そのため、下請負人に対して原価割れ受注を強制することがないようにするためには、
元請負人において、
- ①下請負人に対して、当該契約を断っても今後の取引において不利益な扱いを行わないことを明確に示す。
- ②下請代金の額の交渉に関し、自らの査定額と下請負人の見積額との間に乖離があった場合には、自らが積算根拠を明らかにしたり、自らの積算における工期等の設定が不適切なものとなっていないかについて下請負人の意見を参考として検証を行うなど、下請負人との協議を尽くす。
等の対応を行うことが必要です。